

相場戦略研究所
パニック (14.3.22 林知之)
海に潜って海底の生物を観察したり風景を楽しむスキューバ・ダイビング。レジャーとして多くの人に親しまれているのは、安全性を考えてつくられた装備と安全にダイブするためのノウハウである。
実際、まったく泳げない人や体の不自由な人まで楽しんでいるのだ。
安全な装備があるといっても、行く先は人間が棲むことのできない海中。わずかなことで大きな事故につながる。だから、ひと通り機材の扱い方から基本を学ぶと、ちょっとしたことであわてずに行動するための練習を繰り返す。
たとえば、マスク(水中メガネ)が外れたりずれたりすれば中に水が入ってくる。初心者なら、これだけでパニックになってしまう。練習では自らマスクを外し、再び顔にあて、口から吸った空気を鼻から出してマスクの中の水を完全に排水することを繰り返す。マスクがなくなると極端に前が見えなくなるから、練習で自分の手で外しただけでもかなり緊張する。
もし海中で不意に外れたら、慣れていない人はあわててしまい、空気をたくさん吸い込んで呼吸を止め、気づかないまま浮上してしまう危険がある。海上の船にぶつかったり、海中で圧力のかかった空気を肺いっぱいにためたまま浮上すれば、周囲の圧力の低下で体に大きな障害が出てしまうこともある。深いところの魚を釣り上げたときに内蔵を口から出してしまうのと同じである。
訓練をして慣れていても、海中でのストレス(心的圧迫)は消えない。視界も狭く、判断能力も落ちる。事故防止のためには細かい手順を一定にして小さなミスを極力ゼロに近づける。そして、体調や海の状況が芳しくなければ海には入らない。
相場は経済行為であり、非常に知的な作業と認識されているから、海に潜るときのようなストレスとは無縁に思える。
だが、会社の内容の変化以上に価格が変動し、ときとしてまったく無関係に、あるいは極めて激しく動くのだから、やはり市場参加者の感情で動いていると言わざるを得ない。
その中で自分だけが冷静でいようと試みるのだが、どうしたって自分も感情的な群衆のひとりとなってしまうことは否定できない。
ポジションを取れば緊張する。すぐに命を落とす危険がないだけで、常に軽いパニック状態になっているのだろう。 絵に描いたようにカッコよく行動しようとしても怪我をするだけ。
「自分が普通な状態ではない」と認識して控え目に行動しろ、というのは、やはり適切な考え方である。実際、コンスタントに利益をあげている人でも、心理状態に大きな差は感じられない。
大きなパニックに陥らないように注意しているだけである。だが、理論と実際はちがう。
現実に売買しながら“危険の避け方”を学び、反射的に行動できるようにしているのである。
